●シャーロックホームズの外套●
メンズファッションにケープは、ちょっとなじみがないような気もしますね。でも決してそんなことはありません。中世の欧米では、ケープは男性の外套としてごく一般的に着られていました。デザインもいろいろなものが生まれましたが、インバネスもそのひとつ。その呼称は発祥地である街の名、インバネスに由来します。スコットランドの北西部に位置する古都で、早くから服飾文化が盛んな地域です。
インバネスは二重構造で、内側には袖のない長いコート、外側には肩全体を包みこむ短いケープになっています。ケープ部分は取り外しが可能なものも多くあり、おしゃれな紳士の防寒着としてなかなか便利なアイテムだったのです。
そういえば、イギリスの名探偵シャーロックホームズも愛用していましたね。ツイード製のインバネスコートをはおって鹿撃ち帽をかぶり、パイプをくわえたホームズの姿を思い出しませんか。
●日本男性に流行したケープ●
ケープ型の外套が日本男性の間に流行したのは、明治20年頃のこと。日本の着物文化とうまく融合したのが、人気の理由です。和洋折衷の先駆けといえるかもしれません。
当時、日本の男性はまだまだ和服を着ることが多かったのですが、袖の開きが大きくて着物の手元が邪魔にならないインバネスは、和服の上に着る外套としてもてはやされました。
暖かさや着心地のよさはもちろんですが、シルエットの美しさやスタイルの新しさもモダンな印象を与えました。日本では「トンビ」と呼ばれることも多かったのですが、ケープの部分がトンビの羽に見えたことから名付けられたようです。
明治や大正、昭和初期には名士や文豪も好んで着ていたので、インバネスには知的な紳士のイメージもありますね。今ではあまり見かけることもなくなりましたが、大正ロマンの香りに惹かれる男性も少なくはないのです。
●燕尾服とイブニングケープ●
燕尾服とは夜間に男性が着用する正礼装で、オーケストラの指揮者も着ているイブニングコートのことです。特徴はツバメの尾に似た長い裾で、白い蝶ネクタイと合わせて着用するために“ホワイトタイ”ともいわれます。政府主催の公式レセプションなどではよく着用されますが、最近ではタキシードに押されて一般的な礼装ではなくなってきています。
男性用のケープの一つに燕尾服の上に着用するものがあり、ドレスケープ、またはイブニングケープと呼ばれてきました。燕尾服が過去のものとなるにつれてイブニングケープを目にする機会も減ってきましたが、男性とケープのつながりを伝える貴重な歴史の1コマといえそうです。